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【プレミアム記事】≪食道がん≫食道切除術後の後遺障害と食事の注意点
2020.06.19
消化器系のがんに罹患した場合「食事」に大きな課題が出ることがあります。今回は食道がんについて詳しく見ていきましょう。
食道がんは、頸部・胸部・腹部に分類され、手術部位や範囲、再建の方法により、術後の後遺障害との向き合い方が異なります。実は、初診時にすでに栄養不良が見られたり、手術前から食事量の減少が見受けられることも大きな特徴のひとつですが、さらに術後の後遺障害により低栄養に陥ってしまう可能性もあるため、栄養管理がとても重要です。今回は、実際に栄養管理に携わった経験をもとに、食道がん術後における後遺障害と食事の注意点について解説します。
■食道切除後の後遺障害
食道がんの手術後は、食事の摂取や栄養状態に関わる様々な後遺障害による症状が起こる場合があります。
①反回神経麻痺
手術の際に声帯を動かす反回神経が障害を受けると、声帯機能に麻痺が起こるため、声がかすれたり、嚥下を防ぐための声門が閉じなくなったりすることがあります。そのため、誤嚥を起こしやすい状態となり、肺炎や嚥下障害の原因にもなります。
②嚥下障害
食べ物を送る蠕動(ぜんどう)運動がなくなるため、上手に飲み込めなくなったり、食べ物を送り込みにくくなったりします。
③小胃症状
胃を用いて食道の機能を再建した場合、胃が形状を変えるため、少量の食事で満腹になったり、食事量が減少したりすることがあります。
④吻合部狭窄(ふんごうぶきょうさく)
手術により、食道や胃、小腸などをつなぎ合わせることを「吻合(ふんごう)」といいますが、吻合のつなぎ目の具合やねじれなど、食べ物の通り道が狭くなることで、食事が喉でひっかかったり、通りが悪く感じることがあります。症状によっては治療が必要です。
⑤ダンピング症候群・逆流性食道炎
胃を用いた再建を行った場合、胃の機能である食物の貯留や初期段階の消化機能が失われたまま食事が一気に小腸に流れ込むと、ダンピング症候群をきたす場合があります。(ダンピング症候群の症状や対策はこちらhttps://kama-aid.com/about/scheme/stomachで解説しています。)
また、食道と胃の境界部分を噴門(ふんもん)といい、食べ物や胃酸の逆流を防ぐ弁のような働きをしていますが、手術内容によって噴門の機能が低下した場合、胃酸や食べ物が逆流しやすく、誤嚥の原因となったり、逆流性食道炎が起こりやすくなったりします。
⑥その他の治療による副作用
化学療法や放射線療法を続けている場合にはその副作用により、食事量の低下や、飲み込みが難しくなる場合があります。
■食道がん手術後の食事の注意点
個人差はありますが、手術後~退院後3ヶ月頃までの期間は手術前と同じような食事の摂り方は難しい場合が多く、1回の食事量を少量にする必要があります。1日の食事回数を5~6回に増やし、ゆっくりとよく噛んで食べましょう。食事の内容は、胃腸に負担がかかりにくい消化の良いものとたんぱく質を合わせて、人肌程度の温度に冷ましたものを食べることから始めましょう。
①後遺障害のなかで一番危険なのは誤嚥
誤嚥は、むせたり咳き込んだり、ひどいときには誤嚥性肺炎を起こす場合があり、次のような注意が必要です。
・水分は最も誤嚥しやすいため、とろみをつけましょう。・姿勢を整え、少しあごを引いて飲み込むようにしましょう。
誤嚥についてはコラム:誤嚥を防ぐための工夫とはでも詳しく解説しておりますので、参考にしてください
②離水しにくいものを選ぶ
「離水」とは、水分と食材が離れてしまうことをいいます。
・お粥(全粥程度)・・・3分、5分粥は水分が多く誤嚥しやすいため、全粥が食べやすいでしょう。
食べている間に、スプーンなどに付着した唾液の成分によってデンプンが分解されて離水が進むため、食べる分だけを小皿に取り分けるなど工夫して食べましょう。全粥に、さつま芋や南瓜を加えて味に変化を持たせるのもおすすめです。また、白身魚や卵・豆腐などのたんぱく質を加えることで、口の中でバラバラにならずに食べやすく栄養補給もできるでしょう。
コラム:【プレミアム限定】胃腸にやさしい「おかゆごはん」のすすめ方①もご覧ください。
・口の中で離水しやすい白菜の煮物などは、そのまま食べると誤嚥しやすいため、煮汁にとろみをつけるなどの工夫が必要です。逆に、まとまりやすい里芋の煮物などは食べやすいでしょう。
・煮物(多めの煮汁で調理)・・・仕上げに煮汁にとろみをつけたり、あんかけにすると、まとまって食べやすくなります。
・グラタン風(ホワイトソース利用)・・・パサつく食材も、ソースやチーズでまとまって食べやすくなります。
・ヨーグルトや蒸しプリン、寒天ゼリーなどはかき混ぜると離水しやすく、ゼラチンを用いたゼリーは口内温度で溶けて離水の原因となるため、それぞれ注意が必要です。
・焼きうどん(乾麺利用)・・・お好みの固さにゆでてから炒めると、もちもちの食感に仕上がります。
レシピ例:ソース香る関西風焼きうどん
乾麺2人分200gをゆでてから、手順通り調理してください。長い麺が食べにくい場合は、乾麺を食べやすい長さに折ってからゆでるとよいでしょう。
③控えた方がよい食べ物
しっかりよく噛んでから飲み込むことができれば、食べてはいけないものはありませんが、再建方法によっては胃の形状や機能が変化し、満腹感が続いたり、空腹感が得られない場合があります。ゲップが出たときや食べたものが逆流したときの不快感を避けるため、次のものは控える、もしくは食べる量に注意が必要です。
・不溶性食物繊維を含むもの:こんにゃく・海藻・キノコ類
・刺激の強いもの:胃腸を刺激するほどの唐辛子 など
・消化に時間がかかるもの:固い繊維質、脂質の多い肉類 など
・臭いの強いもの:たまねぎ・にら・にんにくなど
④嚥下機能の低下と食道狭窄症状に対する工夫
手術後間もなくはうまく食べることができていたのに、徐々に食事がのどにつかえやすくなったり、飲み込みにくくなったりする場合があります。このような場合には、食材を軟らかくしてなめらかで飲み込みやすい形状にし、歯ですりつぶしやすくしたり、しっとりなめらかに口の中でまとまりやすく仕上げたりするなどの調理の工夫をすると、食べやすいでしょう。口の中の唾液や水分を吸い取るもの、バラバラになるものや張り付くものは控えてください。
【具体例】
・野菜の皮はやや厚めにむいて、繊維に対して垂直に切る。
・肉はたたいて筋を断つなど、やわらかくする。
・圧力鍋を活用する。
・煮汁を多めに調理してとろみをつけたり、マヨネーズやチーズなどを利用する。
調理の工夫をしても、つかえて飲み込むのが困難なときには自己判断せず、主治医に相談しましょう。
【おすすめレシピ】
・目玉焼き → スクランブルエッグ・オムレツへ
・ゆで卵 →温泉卵へ
・パンケーキ・ホットケーキ →フレンチトーストへ
・和風スパゲティ →クリームソーススパゲティ、クリームパスタへ
・海鮮丼→ネギとろ丼・うな重へ
⑤逆流症状への対処
食後すぐに横になると、胃管から口の中へ食べ物が逆流してくることがあります。食後は上体を起こしたまましばらくゆったりと過ごし、食後30分は横にならないようにしましょう。
⑥無理に食べる必要はない
食欲がないときには、無理に食べる必要はありません。好きなものや食べやすいものを選び、少量でも栄養価を高くする工夫をすると良いでしょう。
【少量で栄養価を高くする食事例】
・ロールパン・食パン→クリームパンへ
・果物・生野菜→ バナナ・アボカドへ
・白ごはん→ 卵/とろろかけごはん・天津飯・麻婆丼へ
・クッキー→ ロールケーキ・ワッフル・チョコレートへ
⑦水分補給
食事がまったく摂れない場合にも、水分は摂るようにしましょう。嚥下障害により食事量が減少すると、身体に必要な水分や塩分が不足しやすくなるため、スポーツ飲料や経口補水液の利用もおすすめです。水分でむせやすい方は、とろみ調整食品やゼリー飲料なども活用しましょう。
■患者さんの相談事項から
①外食について
「残してはいけない」「残すとお店に悪い」などの理由から、外食を控えるという声をよく聞きますが、メニュー選びを工夫することで外食にも対応できます。単品で注文したり、ごはんの量を少なめにしてもらうなど、以前の食事量ではなく今の食事量で考えるようにしましょう。出てきたものの中から、食べられるものと食べられないものをきちんと分けることも大切です。
②外来受診や社会復帰後の昼食の選び方
コンビニエンスストアやスーパーなどの総菜の種類は大変豊富です。バナナやプリン、ゼリー、ヨーグルト、チーズなどの補食になるものや、エネルギー補給ドリンクやゼリーなど、食事の代わりにできるものもたくさんあります。うどんやそばもインスタント麺だけでなく、電子レンジで加熱する生めんタイプも増え、自宅で調理するやわらかさにより近いものを選ぶことも可能です。
また、親子丼やオムライス、グラタン、ドリア、天津飯など、ご飯の上にとろみのあるおかずが乗せられたタイプのお弁当も数多くあります。外出先だけでなく、ご自宅でも試してみてはいかがでしょうか。
③まとめ
「体重を減らしたくないがお腹がすかない」「少し食べるとお腹がいっぱいになってしまう」「無理に食べることがつらかった」「ときには経腸栄養に助けられた」といった声を耳にすることがあります。手術後の食事が患者さんご本人やご家族にとって、身体的にも精神的にも食事が大きな負担となっている場合があるでしょう。しかし、辛いときは極端に無理をして食べなくても良いのです。少し気持ちを楽に持ったことで、逆に食べられるようになったという声も、実際よくあることです。
回復の進み方には個人差があります。ご家族や周りの方は食べ物をすすめすぎないように配慮し、患者さんご本人は、ご自身のペースでゆっくりと進めましょう。そして、食べられないことや体重が減ることについて不安を感じる場合には、医師などの医療スタッフに相談しましょう。
【参考書籍】
・がん病態栄養専門管理栄養士のためのがん栄養療法ガイドブック(2019年 日本病態栄養学会)
・消化器ナース・コメディカルが知っておきたいこれからの術後食事指導(2006年 メディカ出版)