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【プレミアム記事】知ってほしい!嚥下障害のこと
2020.02.07
わたしたちが、普段何気なく行っている食事。誰かに教わったわけでもなく、当たり前のように食べたり飲んだりすることができます。しかし、病気や加齢などの影響で、食べたり飲んだりすることが難しくなってしまう場合があります。実は、食べたり飲んだりすることはとても複雑な体の働きによって行われているのです。今回は、嚥下(えんげ)や誤嚥(ごえん)の基本的なメカニズムについて見ていきましょう。
食べるという動作は大きく分けると、食べ物を口に運ぶまでを『摂食』、そこからゴックンと飲み込むまでを『嚥下(えんげ)』といいます。この動作のどこかに問題が起きて、うまく飲み込めなくなってしまうことを『(摂食・)嚥下障害』と呼びます。嚥下障害になると、食べたり飲んだりしたものが食道ではなく気管に入ってしまいやすくなり、これを『誤嚥(ごえん)』といいます。
<こんなことありませんか?>
普段の食事をすこし振り返ってみましょう。
ご自身では気づきにくいこともあるかもしれませんので、ご家族も一緒に下の項目に当てはまるかチェックしてみましょう。
□ ごはんを食べたり、水分を飲んだりするとムセる。
□ ごろんと横になったり、寝ているときにムセる。
□ 痰がよく出るようになった。
□ 食事中や食事のあとになると、ゴロゴロと痰が絡んだりガラガラ声になったりする。
□ 原因がハッキリわからないが、熱が出る。
□ うどんなど、温かいものを食べているわけではないのに、食事になると急に鼻水がダラダラと出てくる。
□ 飲み込みにくさを感じたり、むりやり水分で食べ物を流し込むような食べ方をする。
□ 体重が減ったり、食べたいという意欲が減っている。
これはどれも、誤嚥している人に多くみられる特徴です。いくつか心当たりがある場合は、誤嚥が起こっているかもしれません。
<誤嚥のリスク>
そもそも誤嚥とは、そんなに気にしなければいけないのでしょうか。
食べたり飲んだりしたものが気管に入ってしまった場合、反射的にムセが起きるのですが、これは気管に入った異物(食べ物など)を外に出そうとする動きによるものです。しかし、そのまま細菌が肺に入ってしまうと、肺に炎症が起きてしまう場合があります。これが『誤嚥性肺炎』です。肺炎は、2018年の調査によると、日本人の死因第5位を占めている侮れない病気です。そんな肺炎を予防するためにも、誤嚥を防ぐということがとても重要になるのです。
<安全に食べてみましょう>
食べ物を、噛む。まとめる。
上手に食べ物を飲み込む前の準備として、まず食べ物をしっかりと噛まなければいけません。歯が抜けたままになっていたり、入れ歯が合っていないなどの状況はありませんか。また、手術の影響などによって舌や頬の機能が十分でない場合は、飲み込みやすい状態まで噛んだり、押しつぶすことが難しくなります。うまく動かせない箇所に食べ物が残りやすくなってしまう場合は、舌や頬などが動きやすい場所に食べ物を置いたり、顔や姿勢を傾けたりすることで、動きやすい部分を上手に使って食べるなどの工夫を行うこともあります。唾液が少なくなっている方は、食事の前や間に、こまめに水分を取るようにしましょう。
噛むことやまとめることに課題のある場合、小さく刻んだもの、やわらかく押しつぶしやすいもの、まとまりやすいもの、などがおすすめです。小さく刻むだけでは食べ物がバラバラになり、飲み込みに課題がある方にはムセやすくなってしまいます。あんかけなどを使った、食べ物がまとまりやすくなる工夫も大切です。
例1:鮭のきざみ野菜あんかけ
ほぐした魚の身にあんをかけ、まとまりやすく工夫しています。
https://kama-aid.com/recipe/4123
食べ物を、飲み込む。
食べやすくまとめた食べ物を、一気にのどから食道へと吸い込まれるように飲み込みます。口やあご、のどなどが一瞬で正確に動かなければならないので、それぞれに十分な筋力や感覚が必要です。手術や薬の副作用などによって、のどなどの動きや感覚が十分でない場合や、痩せてしまったことで筋力が低下している場合には、食べ物が気管に入りやすくなってしまいます。飲み込みに課題がある場合には、ベタベタしていないもの、まとまりやすいもの、などがおすすめです。食べ物がゆっくりのどを通過する工夫が必要なので、勢いよくのどを流れ込んでしまう水分には市販のトロミ剤を使ってとろみを付けると飲みやすくなります。舌が十分に動かない場合は食べ物を少し口の奥の方にスプーンで入れるようにしたり、椅子やベッドなどの背もたれを少し倒して、重力を使って食べ物を送り込むなどの工夫を行うこともあります。食べ物が口から外へ出てしまったり、口の奥から鼻に食べ物が入ってきてしまう場合には、指で口や鼻をつまんで塞ぐと食べやすくなることもあります。
例2:空也蒸し
つるんとした喉ごしで、のどに残りにくいでしょう。卵と豆腐で高たんぱくな一品です。
https://kama-aid.com/recipe/2450
例3:ブロッコリーのポタージュスープ
しっかりとミキサーにかけ、自然なトロミが付いています。
https://kama-aid.com/recipe/205
<まとめ>
今回は、嚥下のメカニズムや誤嚥の初期症状、課題に合ったレシピを例としてご紹介しました。
噛む、飲み込むといった課題は、加齢に伴うものばかりではなく、病気や手術、抗がん剤治療や放射線治療などの副作用により、口腔内の一部の機能が低下したり、一時的に、口やのどなどに炎症が出ている場合にも起こりうるものです。嚥下機能が低下することは、食べる楽しみを遠ざけ、食欲不振から体重減少につながることもあるため、症状にあった適切な食事スタイルを見つけることが解決へとつながります。より詳しい嚥下の検査などは、かかりつけ医や看護師、言語聴覚士に相談しましょう。