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【プレミアム記事】がん治療中のサルコペニアと食事

2020.12.04

「サルコペニア」という言葉をご存知ですか?
聞き慣れない言葉かもしれませんが、がんと闘う方や共に生きる方、支える方にとっては身近でとても大切な事柄です。今回は、がんの治療を行う上で患者さんとそのご家族にぜひ知っていただきたい、サルコペニアとその予防のために心がけたい食事についてご紹介します。


■サルコペニアとは
サルコペニアとは、もともとは「加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下」を意味します。つまり、お年寄りになって筋肉が減少してしまう老化現象の一つです。これを「一次性サルコペニア」といい、サルコペニアの状態になると運動能力や身体機能が低下することから、高齢化社会においてはサルコペニアの予防に栄養が大切であるということが特に重要視されてきました。

一方で、加齢以外の様々な原因(低栄養、病気、寝たきりなど活動の低下)に伴う筋肉量の減少とそれによって起こる筋力低下により、歩くスピードが遅くなるなど運動能力が衰えている状態のことを「二次性サルコペニア」といいます。最近では、がんによる二次性サルコペニアが、その治療や予後に悪影響をもたらすことが注目されています。

がんというのは厄介な病気で、がんそのものが栄養状態の悪化を引き起こす原因になるといわれています。がんが進行すれば、がん自体から様々な物質が放出され、骨格筋の分解が進んで筋肉量が減り、体重が減ってしまうのです。その上、食道がんや胃がんなどの消化器のがんでは食事量が減ってしまい栄養状態がどうしても悪くなるため、がん患者さんはサルコペニアに陥りやすいのです。

体重減少はがん患者さんの3080%にみられ、うち15%は重篤な状態になっているといわれています。また、最近の研究でサルコペニアは治療成績にも悪影響をもたらすことがわかってきました。手術そのものがサルコペニアを進行させ、化学療法の影響で食欲低下や体重減少が起こってしまうというケースも少なくありません。そのため、栄養療法によってサルコペニアを予防・改善することは、がん治療の成績向上につながる可能性があると注目されているのです。

しかし、がん患者さんがサルコぺニアを予防したり改善させたりするのは簡単なことではありません。がん患者さんがやせる原因はがんそのものによる場合だけでなく、治療の影響により体調が変化して食事が食べづらくなりやせていくケースや、食事はいつも通り食べているにもかかわらずやせてしまうケースなどもあります。食べづらくなってやせていく場合には食べるための工夫をすることが可能ですが、食べているのに筋肉量が減っていく場合には対応がとても難しいのが実情です。


■サルコペニアにならないために
サルコペニアにならないためには、たんぱく質を中心にしっかりと栄養を摂って体重を落とさないことが重要です。
とは言っても、食べたくても食べられないこともあるでしょう。特に、抗がん剤治療中には食欲がない、倦怠感、味覚障害、口内炎、吐き気、体重減少、精神的不安などの副作用が起こりやすくなります。このようなとき『食べやすいもの』として、果物、麺類、汁・スープ類、アイスクリーム、ヨーグルト、ゼリー、サラダ、酢の物、お粥などを挙げる患者さんが多く、残念ながら、たんぱく質は敬遠される食べ物の代表です。
たんぱく質を多く含む食品の中でも、乳製品や豆・豆製品、脂質の少ない鶏肉や白身魚は比較的食べやすいので、可能であれば少量でも上手く取り入れましょう。

【たんぱく質の摂取目安】
標準体重(健康を維持するための理想的な体重)1㎏あたり1g以上のたんぱく質を摂るように推奨されています。
 標準体重=身長(m×身長(m×22
※身長170cmの場合:1.70×1.70×22=63.58→約64g
 1日に約64g以上のたんぱく質の摂取が目安。

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また、入院中寝たきりにならず、栄養バランスの整った食事と適度な運動によって二次性サルコペニアを予防することもとても大切です。筋肉量の減少を防ぐ
ことは、がん治療の補助的療法になります。どのような運動(リハビリ)が適しているのか、医師など医療従事者に相談してみましょう。


■さいごに
がんの治療前から体重減少に悩む患者さんや、がんが判明した時すでに体重減少が始まっているという患者さんは少なくありません。治療や手術の前に「体力を付けるために好きな物をたくさん食べて体重を増やしてきました」と話す患者さんや、「少しでも栄養のつく物を用意して食べてもらいました」と話すご家族の方も多くいらっしゃいます。しかし、サルコペニアの予防という観点からは、好きな物や栄養価の高い物を食べるだけでなく、ご自身の栄養状態にあわせて食べる物を選ぶことも必要です。一方で、あふれる情報に混乱してしまうケースも見受けられ、自ら食事の幅や質を狭めてしまう人が多いようにも感じます。
正確な情報を収集し、今の自分に適した情報かどうかの見極めをすることが非常に大切です。ご自身に合った食事療法については、医師や管理栄養士などへご相談されることをおすすめします。







【参考書籍】
・がん栄養管理完全ガイド Q O Lを維持するための栄養管理 (文光堂 2014年)
・日本病態栄養学会 がん栄養療法ガイドブック (南江堂 2019)

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