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【プレミアム記事】《胃がん》胃を切ったあとの栄養素の吸収障害について②

2020.07.17

▶前編【プレミアム限定】《胃がん》胃を切ったあとの栄養素の吸収障害について①はこちら

■胃の切除により低下する機能と栄養素の吸収障害
胃のどの部分をどれくらい切除したかによって、低下する機能は異なります。症状に応じて、おすすめ料理や気をつけたい料理をお役立てください。

1.胃切除後は、食物をためる働きが低下する
胃の一部、または全部を摘出することにより、胃の容量が小さくなり食べ物をためておく機能が低下します。食事を一度に十分摂れない場合は、主菜(肉・魚・卵・大豆製品など)を中心に、良質なたんぱく質を摂るようにしましょう。また、13食で十分な食事量が摂れない場合には、補食を摂るとよいでしょう。手軽に栄養補給ができる栄養補助食品もおすすめです。

〇おすすめ料理例

・主菜
煮魚や焼き、肉じゃが、オムレツかに玉温泉卵ハンバーグしゃぶしゃぶ、ロールキャベツ、あんかけ豆腐など 
・補食
おにぎりホットケーキサンドイッチ、カステラ、パン、チーズ、ヨーグルトドリンクプリン、スープ・ポタージュミルクティーなど手軽に食べられるもの
・栄養補助食品
エンジョイゼリーリハたいむゼリー和風だし香る茶碗蒸し豆の富クリミールなど

△気をつけたい料理例
・コーラやビールなどの炭酸飲料は、お腹が張りやすく食事量が減ってしまうことがあります。飲む量に注意して、お腹が張るような場合には控えましょう。
・炒め物や揚げ物などの調理法は、油を多く含むのでエネルギーにはなりますが、下痢などでおなかの調子が悪いときには食べる量に気をつけましょう。


2.胃酸を分泌したり、食べた物を腸に送ったりする機能が低下する
胃の手術後は、消化酵素や内因子、胃酸などの分泌が減少することにより、鉄やカルシウムなどの栄養素が吸収されにくくなり、貧血やカルシウム吸収障害(骨粗鬆症)などの「胃切除後症候群」になることがあります。
鉄分の吸収障害による鉄欠乏性貧血では、動悸や息切れ、めまいなどの症状があらわれるケースが多いようです。
カルシウム吸収障害では、骨がもろくなり骨折しやすくなることがあります。カルシウムが骨に沈着するためにはビタミンDが必要ですが、ビタミンDは脂溶性のため、脂肪の吸収障害により吸収が減少し、カルシウム移動が促進されることも一因と考えられています。
また、手術の際に迷走神経と呼ばれる神経が切られた場合には、胃の出口側の排出する機能が低下するため食べた物が胃にたまってしまいなかなか出ていかなくなり、もたれなどの症状が起こりやすくなります。

〇おすすめ料理例

・胃酸で殺菌する力が低下しているので、鮮度の良い食品を選ぶようにしましょう。
・消化の良いもの
雑炊煮込みうどん茶碗蒸し煮魚、煮物お浸しリゾットグラタンシュウマイポテトサラダ煮奴シチュー、蒸し鶏、フルーツコンポート、フルーツゼリームースなど
・野菜は繊維を切るように下処理したり、軟らかく煮たりすると消化が良くなります。
貧血でお悩みの方は、鉄分の多い食品(レバー、肉類、鶏卵、魚類、大豆製品など)や、緑黄色野菜などを意識して摂ると良いでしょう。緑黄色野菜や果物類に多く含まれるビタミンCには、鉄分の吸収を助ける効果が期待できます。
・ビタミンDは、魚類・肉類・卵類・干ししいたけなどに多く含まれています。また、骨量を保つためには、日光を浴びて適度な運動をすることも大切です。
・カルシウムの多い食品
牛乳、ヨーグルト、チーズ、小魚、大豆製品、緑黄色野菜などには、カルシウムが豊富に含まれているのでおすすめです。
牛乳をそのまま飲むのが苦手な方や下痢の症状がある方は、シチュースープゼリーなどの調理に使用するとよいでしょう。

△気をつけたい料理例
・古くなった物や生ものは鮮度に注意しましょう。
・繊維の多い玄米や雑穀、胚芽入りパン
・脂肪の多い食品や加工品(バラ肉、ベーコン、ウインナーなど)
・刺激のある食品(カレー粉、わさび、からし、唐辛子など)
・消化しにくい魚介類(いか、たこ、貝類など)
・繊維の多い食品(ごぼう、れんこん、さつまいも、山菜、たけのこ、野菜や果物の皮や筋・種、とうもろこし、きのこ類、海藻類、こんにゃく、ドライフルーツなど)
・噛んでも口に残るようなものは消化しにくいので、体調を見ながら少しずつ食べるようにしましょう。


3.残った胃から食物が急速に腸に流れていく
健康な胃の場合、口でよく噛んで小さくなった食物を胃で3mm程度に細かくし、ゆっくりと十二指腸に排出します。しかし、幽門側胃切除術のケースのように胃の出口である幽門を切除すると、食べた物が残った胃から腸へ早く流れて行くようになります。特に、液体や細かいものはすぐに小腸内へと流れ込み、ダンピング症状(発汗・めまいなど)や下痢、栄養障害などが起こりやすくなるといわれており、食べ方に注意が必要です。また、胆汁の逆流により残った胃が炎症を起こしたり、場合によってはこれらの消化液が食道へ逆流して逆流性食道炎が起こったりすることもあるようです。

胃全摘術後や噴門側胃切除後では、胃の入口である噴門の機能が失われることにより消化液や食物の逆流が生じやすくなり、逆流性食道炎を発症することが知られています。特に高齢者の場合は、就寝中に消化液が逆流して気管内に流れ込み、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れもあるので注意が必要です。

〇おすすめ料理例

・ゆっくりよく噛んで食べるように意識しましょう。
1回の食事量を少なくして回数を多くしましょう。
下痢でお悩みの場合は、腸内環境を整える乳酸菌ビフィズス菌などの入ったヨーグルト、オリゴ糖などもおすすめです。

△気をつけたい料理例
・麺類は、のど越しが良く噛まずに飲み込んでしまいやすいので、ゆっくりよく噛んで食べましょう。軟らかく調理すると消化しやすくなります。
・アルコールは、早く吸収されるため酔いやすくなります。アルコールの開始時期や量などは医師に確認しましょう。


■さいごに
胃の手術について、大きな不安を感じている方は多いと思います。手術によって、これから身体にどのような影響が現れるのか心配な方も多いでしょう。身体を大切にして気をつけるのは良いことですが、あれもこれもダメと制限しすぎると「食べること」が苦痛になってしまい、かえってよくありません。
胃切除後に食事でつまずいてしまうケースでは、一度にたくさん食べてしまう、早食い、よく噛まないで丸飲みする習慣がある、食べた後すぐ横になってしまう、などの共通点が見受けられますが、大切なのは、胃を切った後の新しい身体に合わせて生活することです。
胃切除後、基本的に食べてはいけないものはありませんので、食事の制限をしすぎて食べる楽しみを減らしてしまわないように、時には好きなものを食べ、食べる楽しみを徐々に取り戻しましょう。






【参考文献】
・「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養(2014年 医学書院)
・からだのしくみ事典(2002年 成美堂出版)
・「消化器の手術&臓器のはたらき」(消化器外科ナーシング2016年)
・胃を切った方の快適な食事と生活のために(「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ PGS対応システム機築プロジェクト 胃外科・術後障害研究会)
・国立がん研究センター がん情報サービスHP

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