プレミアムサービスの無料開放のお知らせ

詳しくはこちら
  • プロのひと工夫

【プレミアム記事】経腸栄養と静脈栄養

2020.10.23

がん摘出手術後に口から食べることが難しい場合や、抗がん剤の副作用等により一時的に食欲が著しく低下したなど、口からの十分な栄養補給が困難な場合には人工的に栄養を身体に投与する必要があります。その方法は大きく2つに分類され、直接栄養剤を胃や腸に注入する「経腸栄養」と、胃腸そのものが病気などの理由で機能しないときに点滴で直接栄養分を体内にいれる「静脈栄養」があります。
今回はがん病態栄養専門管理栄養士の立場から、栄養管理に携わらせていただいた経験や、患者さんの体験談を交えながら、「経腸栄養」と「静脈栄養」について解説していきます。


■経腸栄養

私たちは、特別な事情がない限り食べたり飲んだり自由に口から食物を摂取(経口摂取)します。しかし、食物の摂取量が不十分な場合や口から十二指腸までのいずれかの消化管が使用不能である場合には経腸栄養が行われ、患者さんの状況に合わせて様々な方法が選択されます。

まず、どのように栄養剤を注入するかの選択では、経腸栄養の継続期間に応じて、46週間程度の場合は経鼻胃管法(鼻から胃へチューブを挿入する方法)、期間が6週間を超える場合には、PEG:経皮内視鏡的胃ろう造設術(内視鏡で、胃に栄養を送る穴をつくりそこから栄養を補給する方法)が選択される場合が多いようです。

お腹に穴を開けると聞くと驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはおよそ5mm程度の穴で、鼻からチューブを入れるより患者さんの負担は楽だといわれています。
また、胃がんや食道がん、膵臓がんなどで胃を切除した等、胃ろうが困難なときにはPTEG:経皮経食道胃管挿入術(内視鏡を使って頸部からチューブを入れ栄養を補給する方法)や、腸ろう(腸に栄養を送る穴をつくりそこから栄養を補給する方法)が選択される場合もあります。
胃の内容物の逆流による誤嚥のリスクがある場合には、経鼻十二指腸法(鼻から十二指腸へチューブを挿入する方法)または経鼻空腸法(鼻から空腸へチューブを挿入する方法)が選択される場合が多いようです。

投与する栄養剤も様々です。消化の良いものや栄養価の高いものなど状態に合わせてそれぞれ栄養剤の成分が調整されているものを選択することが可能で、より理想的な栄養をバランス良く摂ることができます。また、投与の方法には、持続投与(24時間または一定時間をかけて投与する方法)と間欠投与(1200500ml60120分かけて投与する方法)があります。

このように、経腸栄養は食事が摂れない方にとっては、栄養状態やQOLの改善、手術後の合併症の低下や術後の入院日数の短縮などに効果が期待される大変頼もしい栄養管理の方法といえるでしょう。

しかし一方で、デメリットもあります。
先に述べた通り、チューブの管理が必要なことに加え、栄養剤の多くは少量で高い栄養価が摂れるように調整されているために脂質が多く負担がかかり、お腹がゆるくなることがあります。また、慣れるまでは違和感や人工的な栄養剤が注入されているという精神的なストレスもあるようです。
下痢や便秘については、注入の速度や内容を変更することにより改善を図ることができるでしょう。精神的なストレスについては個人差がありますが、「これが自分を元気にしてくれる」と前向きにとらえて安心感につなげていた患者さんが多かったように思います。

退院前の栄養指導では多くの患者さん・ご家族が、体にチューブが付いている違和感から「退院時にはとにかくチューブを抜いてもらいたい」「口から食べたい」という相談をされました。
しかし、退院後の食事摂取が大変なことや体重の更なる減少などを経験し、外来通院時には徐々に経管栄養の有り難さを実感される患者さんが多かったように記憶しています。経腸栄養により栄養を補給できることの安心感から「不安や焦りなどの苦痛から解放され結果的に助かった」と笑顔で話される患者さんも多くいらっしゃいました。
また、胃ろうや腸ろうについては「実際に使うとそれほど大変な事ではなかった」と話される患者さんが多かったです。入浴、外出なども自由にできますし、しっかりと栄養を摂ることができるので、栄養管理の選択が必要な場合には、先入観を持たずに医療スタッフやご家族としっかりと相談されるとよいでしょう。


■静脈栄養
手術や疾患で消化管そのものが傷んでいる、化学療法などで吐気、嘔吐、下痢などの消化器症状が強い、などの理由により経腸栄養が不可能な場合があります。このようなときには、静脈栄養により点滴で栄養を摂ることとなります。

静脈栄養には、末梢静脈栄養と中心静脈栄養があり、食事ができない期間に応じて選択されます。末梢静脈栄養は、通常の腕から行われる点滴をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。

絶食期間が長期に及ぶ場合、末梢静脈栄養では十分な栄養を投与することができません。そのため、中心静脈栄養に変更し、太い血管にチューブをいれて濃い栄養剤を投与することとなります。

最近では、PICC(上腕から挿入するカテーテル)が使われることが多いようです。

長期に静脈栄養を行うことが予想される場合には、CVポートといって身体にカテーテルを埋め込む方法もあります。このCVポートを使うと、在宅での点滴も簡単になります。


ただし、中心静脈栄養では感染症への十分な注意が必要ですので、衛生面などの管理に気をつけなければなりません。


■さいごに
がん患者さんでは、食事摂取が困難なケースは多くみられます。以前、消化管の問題で長期間食事を中止していた患者さんに食事開始のサポートをしたときのことです。その患者さんからは、点滴や栄養剤を指差して「お腹がすいた感じがしない」「どうやって食べるのか忘れちゃった」などの言葉がありました。決して急いだり焦ったりする必要はありませんが、可能であれば朝起きて夜寝るように、朝昼夕の食事の時間を定める事をおすすめしました。多く食べる必要はありませんし、少しの水分だけでも構いません。こうした習慣が生活や体内のリズムを取り戻し、食欲や空腹感を取り戻すきっかけになることもあるのです。様々な場面があるかもしれませんが、その時々に、医師や管理栄養士に相談しながら進めていただけることを願っています。







【参考書籍】
・日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養テキストブック (南光堂 2017年)
・がん栄養管理完全ガイド Q O Lを維持するための栄養管理 (文光堂 2014年)
・日本病態栄養学会 がん栄養療法ガイドブック (南江堂 2019)

クラウドファンディング SPECIAL THANKS
ページトップへ戻るボタン