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【プレミアム記事】なぜ、食べてもやせてしまうのか。

2020.04.10

体重減少は、がんと診断された時点で約半数の患者さんに見られます。さらに、手術や抗がん剤・放射線などの治療が進むと、さまざまな影響を受けて最終的には約8割以上の患者さんに起こるといわれており、食事を食べられない場合だけでなく、食べているにもかかわらず体重が減少してしまう場合もあります。がん患者さんは、なぜ、食べてもやせてしまうのでしょうか。


■がん患者さんは、なぜ、やせやすいの?
1.食事が食べられない飢餓状態「がん関連性低栄養」
次の要因によって食事量が減ると、体重維持に必要な栄養量が摂取できず飢餓状態となり、「痩せ」が起こります。
①がんの発生場所が、口の中や食道、胃、十二指腸、大腸などの食べ物の通り道であることにより、通過障害や消化不良などが起きる場合
②がんが大きくなって腸管を圧迫し、通過障害を起こして食事が摂れなくなる場合
③がんと告知された時の精神的なショックが、食欲を減退させてしまう大きな要因となる場合
④がんが進行し強い痛みが続いたり、手術の影響や抗がん剤・放射線療法などの副作用により、食事が摂れなくなる場合

2.がん悪液質の状態「がん誘発性低栄養」
健康な場合、食べる量が適切であれば体重は維持され、適切な運動が行われていれば体を組成する要素も大きく変わることはありません。しかし、がんによる体重減少は、必ずしも食べる量を増やすだけでは改善されないのです。

それは、がん細胞が栄養の代謝経路をがん細胞の都合の良い環境にして、がん細胞自身が増殖するためのエネルギーを生み出し、身体のエネルギーを消耗させてしまうからです。

がん細胞は、正常の細胞と比べてエネルギーの消費が多く、筋肉の中のたんぱく質を分解しエネルギーとして使うことで成長していきます。その結果、次第に筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」という状態になります。このような状態を「がん悪液質」と呼びます。

がん悪液質は、食事摂取量の低下による単なる低栄養で起こる反応ではなく、がん細胞から炎症性サイトカインなどのさまざまな物質が放出され、体全体に炎症が広がって身体の代謝機能が影響を受けることにより起こります。悪液質の状態になると特徴的に体重減少がみられ、その主な原因は、骨格筋と脂肪組織の分解促進と考えられており、
・筋肉量の低下が著しい
・食欲不振、倦怠感、臨床検査値の異常
などの症状が現れてきます。このような悪液質の状態が、がん患者さんの栄養管理を困難なものとしてしまうのです。

European Palliative Care Research CollaborativeEPCRC)では、2011年に悪液質の定義と進行度が提唱されています。進行度は、前悪液質、悪液質、不可逆的悪液質の3段階に分類されており、その中でも悪液質は以下のように定義されています。

【EPCRCによる悪液質の定義】
通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわらず)を特徴とする多因子性の症候群。

【悪液質のステージ分類】
  過去6ヶ月間における5%以上の体重減少
  BMIが20未満、かつ2%以上の体重減少
③サルコペニアが認められ、2%以上の体重減少

この3条件のいずれかに一致し、経口摂取不良、全身炎症を伴えば悪液質とみなされます。悪液質は、がん患者さんの20~80%にみられ、QOL(生活の質)や予後とも強く相関しているといわれています。

腫瘍のタイプや部位、がんのステージ、治療方法により異なりますが、がん患者さんが低栄養になる割合は40~80%と考えられており、栄養管理は治療や予後に重要であると考えられています。ごく軽い全身倦怠感、食欲低下が出現する前悪液質の時期は、化学療法やホルモン療法などの治療を受けていることが多く、通常の日常生活を過ごしています。この前悪液質の時期から、積極的に栄養管理をすることが大切です。


■やせると、再発や転移・感染症などが起きやすい
たんぱく質は10個以上のアミノ酸によって構成されており、体の組織やたくさんの酵素、ホルモン、抗体など、免疫に関わる物質の材料になりますが、たんぱく質の量が減ると、体力や免疫の働きが低下して、がんの再発や転移、感染症が起こりやすくなるといわれています。

体を構成するたんぱく質の約50%は筋肉で占められており、飢餓状態時には、筋肉のたんぱく質が分解されて身を削るようにエネルギーとして使われていきます。たんぱく質の分解が進む一方で、合成は抑制されるため、徐々に体が痩せて筋肉量が減り、全身のたんぱく質量が減っていくのです。

がん患者さんは、体力や免疫の働きを維持するためにも、しっかりと食事をすることが大切です。食事を食べられている場合は体重を維持出来ており、抗がん剤治療中でも副作用が出にくいことが分かっています。

このように、
がん患者さんの身体の中で何が起こっているのかを理解することは、がんと上手く付き合っていくためにとても大切なことです。意識して必要な栄養素を摂ることは、これからがん治療を続けていく上でのポイントになるでしょう。


■ 体重減少でがん悪液質を疑い、今できることを
現在、悪液質の代謝異常を改善する治療は、未だ確立されていません。しかし、悪液質の状態と、前述した飢餓による体重減少は共存しています。治療による副作用や食欲不振、悪心、便秘、味覚・嗅覚異常、口内炎などを要因とした飢餓による体重減少は、患者さんご自身やご家族が工夫することによって、ある程度回避することが可能であり、食べ方や調理の工夫、栄養補助食品や経腸栄養剤の利用など、できるだけ早期から、患者さんの状態に合わせて調整することが大切です。

 

 

【参考文献】
・がん病態栄養専門管理栄養士のためのがん栄養療法ガイドブック(2015年 メディカルレビュー社)
・がん患者の輸液・栄養療法(2014年 南山堂)
・国立がん研究センター がん情報サービス(食事と栄養のヒント)
・千葉県がん情報 ちばがんなび
・がん悪液質ハンドブック がん悪液質:「機序と治療の進歩」を臨床で役立てるために(20193月)
・「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養(2014年 医学書院)
・食べ物栄養事典(2009年 主婦の友社)
・厚生労働省HP(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)

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