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  • メディカルオンコロジー

第 5 回  胃を切除した後の食事との向き合い方

2020.08.07

胃がんの手術後は、思うように食べられず毎日の食事に悩むことが少なくありません。胃を切除しても食べることの楽しみを失わないために、また術後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ 生活の質)を高めるうえでも適切な食事法を知っておきたいもの。がん研有明病院 消化器センター 消化器外科 胃外科で医長を務め、患者さんの栄養サポートにも取り組む井田智先生のアドバイスを術後の食生活に活かしてください。


低下した胃の機能を口で補い、少量ずつ良く噛んでゆっくり食べる

胃切除後、胃の働きはどのように変化しますか。


「胃は食べ物を貯めて消化し、少しずつ腸に送る働きをしています。手術で胃を切除すると、胃が小さくなったことで、食べ物を貯めておく力や消化力などが低下し、急いで流し込むように食べると下痢や動悸、もたれ感などが起こりやすくなります。」

【胃切除による胃の働きの変化】
・食べ物を貯めておく力が低下する
・食べ物を細かくする力が低下する
・食べ物を消化する力が低下する
・食べ物が一気に流れてしまう
・逆流を防ぐ力が低下する


「対処法としては、少量ずつ良く噛んでゆっくり食べることを心掛け、胃の働きを口で補いましょう。1食を30分かけて食べるのが理想です。食事の回数は、1回で食べられる量が少ないため、朝食、昼食、夕食の間に補食を挟む15回食とし、補食のビスケットや栄養補助食品でカロリーと栄養をこまめに補給してください。5回食をやめるタイミングは術後3ヵ月が目安ですが、1回の食事量が術前より少ない場合は5回食を続けましょう。」


体調と相談しながら食べたい物を味わい、ストレスの少ない食生活を

―胃に負担をかけないためには、どのような食べ物を選べばいいですか。


「術後におすすめの食べ物と、注意したい食べ物はありますが、絶対に食べてはいけない物はありません。禁止事項が多いと食事がストレスになるため、好きな物を食べて体調の変化を観察し、食後にお腹が張る、下痢をするなどの症状があれば控えましょう。一般的に術後3ヵ月ぐらいで、食べられる物の種類が増えていきます。」

【おすすめの食べ物】
・白身魚、ささみなど高たんぱくで脂肪の少ない肉類
・卵
・豆腐
・繊維の少ない野菜

【注意したい食べ物】
・食物繊維が多い食材(きのこ類、こんにゃく、海藻類、ごぼう、タケノコ、トウモロコシなど皮付きの食材、ナッツ類、玄米)
・硬い食材(イカ、タコ)
・消化の悪い物(中華麺、揚げ物)
・炭酸飲料、アルコール、お茶、コーヒー
・香辛料


食べ方に注意して食後のダンピング症候群を予防

―胃切除後に起こる食後の不快な症状と、それを予防する食べ方を教えてください。

「胃の手術をした方の半数以上に『ダンピング』という症状が現れます。ダンピングとは、もともとダンプカーが土砂を勢いよく下ろすことを表す言葉。つまり、食べ物を胃に貯められず一気に腸の中に流れ落ちる状態を意味し、『早期』と『後期』の2種類あります。

食後30分以内に起きるのが『早期ダンピング症候群』です。十分に消化されていない食べ物が急速に腸に運ばれると腸が激しく動き、腸から血管に作用するホルモンが分泌されて全身の血管が広がり、冷や汗、めまい、動悸、下痢などが起こります。予防法は、少量ずつ良く噛んでゆっくり食べることです。また食事中の水分摂取は控え、水分を多く含むおかゆを食べるときは流し込まず、十分に噛んで少しずつ飲み込むようにしましょう。

『後期ダンピング症候群』は、食後13時間後に起こり血糖値が関係します。食べ物が急速に腸に流れ込むと短時間で糖が吸収されて一時的に高血糖になります。すると、血糖値を下げるために大量のインスリンというホルモンが分泌され、今度は低血糖に陥り頭痛、めまい、眠気などの症状が現れます。こうした低血糖症状を防ぐには、やはり少量ずつ良く噛んでゆっくり食べることが大事。また高たんぱく・低炭水化物の食事を心掛け、糖質を多く含むごはんやパンより先に副菜から口にして食べる順番を意識することでも血糖値の変動を抑えられる可能性があります。」



少量でカロリーを摂取できる食事で食欲減退期を乗り切る

―食欲がわかずあまり食べられないときはどうすればいいですか。


「食欲をつかさどるグレリンというホルモンが減少すると食欲が低下します。術式の中でも噴門側胃切除術と胃全摘術は、グレリンが分泌される胃の上部を切除するため食欲低下が著しく、胃全摘術の場合は術後1年で体重が平均して20%も減少すると言われています。グレリンの約90%は胃で作られますが、視床下部や他臓器からも分泌されるため手術から1年程で食欲は戻り、食事量は術後1年で約70%まで回復するため心配しすぎることはありません。

食欲がないとたくさん食べられないため、少量でカロリーを稼げる食材を選ぶのがポイント。例えば、たんぱく質が豊富なささみや、ごはんは小さめのおにぎりにすると食べやすく、温かいごはんのにおいで吐き気を覚えるときは冷ましておくといいでしょう。あとは自分が食べたい物、食べやすい物を選んでください。」

術後の食事の困り事は一人で抱えず、主治医や管理栄養士に相談しましょう。食事日記をつけて、「体調が悪くなる食べ物」「食べるスピード」「味覚障害の有無」などを記録し、より具体的な報告ができると状況を把握しやすく的確なアドバイスがもらえるはずです。



【プロフィール】井田智(いだ さとし)先生
公益財団法人がん研究会有明病院 胃外科 医長、栄養管理部NST担当副部長。
熊本市出身。長崎大学医学部卒業後、熊本大学医学部 第二外科(,消化器外科学)に入局し、20144月よりがん研有明病院にて胃癌の手術を専門に行っている。可能であれば胃全摘を避け、少しでも胃を残す手術法(機能温存手術)を患者さんの病状に応じて選択している。またがん患者さんの日々の生活に直結する、栄養面でのサポートにも注力している。
日本外科学会専門医、指導医。日本消化器外科学会専門医、指導医、評議員。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。日本内視鏡外科学会技術認定医。日本臨床栄養代謝学会認定医、学術評議員。



取材・執筆/北林あい  撮影/AKANE
取材協力 キャンサーネットジャパン
https://www.cancernet.jp/

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