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  • メディカルオンコロジー

第 3 回  がんの治療中こそ心掛けたい「お口のケア」

2020.03.13

がんの治療中にお口のケアが大切と言われても、ピンとこない人は多いかもしれません。実は、治療中にお口のトラブルに悩む方は少なくありません。治療をスムーズに進めるためにも、知っておきたいがん治療とお口のトラブルとの関係や、その予防法について、国立がん研究センター中央病院 歯科医長の上野尚雄先生にお話をうかがいました。


お口のトラブルは食事や会話を妨げ、治療にも悪影響

―がんの治療中は口の中にどんな症状が現れ、それが治療に与える影響を教えてください。

「がんの治療中は、抗がん剤の影響で口の中にも様々な副作用が現れます。口や喉のがんへの放射線療法では、特に高い頻度で口の中に不快な症状が起こり、重症化する傾向があります。おもな症状は、口の粘膜に炎症が起きて痛む(口内炎、口腔粘膜炎)、唾液の分泌が悪くなり口の中が乾きやすい(口腔乾燥症)、カンジタやヘルペスなどの感染症が起きる(口腔内感染症)などが挙げられます。また、骨転移のある患者さんに対して骨折予防などのために使用する薬剤(ビスフォスフォネート製剤や抗ランクル抗体)の影響であごの骨の壊死などが起こることもあります。これらの症状が悪化すると、食事や会話が妨げられて生活の質が低下したり、口の中の感染が全身に広がったりしてしまいます。それだけでなく、食事が食べられずに体力が落ちることで治療を続けられなくなってしまうこともあり、がん治療そのものに悪影響が出てしまうこともあります。」


口の中に起こる副作用を予防するには『歯みがき』が効果大!

―では、お口のトラブルを予防するために、患者さん自身ができることはありますか。

「お口の中は細菌が多い場所です。症状がないからといって、お口の衛生状態が悪いままでがん治療を始めると、これら口の細菌が直接的・間接的にトラブルを起こすことが知られています。ですので、口の中に起こる副作用のリスクを下げるには、口の中を清潔に保つことが大切です。がん治療を始める前に歯科を受診して、歯石や着色汚れをしっかりクリーニングし、お口のトラブルの原因となる細菌が繁殖しにくい環境を整えましょう。また、患者さん自身ができる最も有効な手段は、実は『歯みがき』です。お口の状態に合わせた効果的な歯ブラシ方法の指導を受け、セルフケアで口の中の細菌が少ない状態を維持することがとても重要です。食事をとっていなくてもお口の細菌は増えるので、治療中体調が優れず一時的に食事が食べられなくなったときでも、無理のない範囲で歯みがきを行っていただきたいです。

もし、治療中にお口のトラブルが起きたときは、次のことに注意して歯みがきを行うと良いでしょう。

●痛い部分にあたらないように、ヘッドが小さい歯ブラシを選ぶ。
●歯ブラシの硬さは『ふつう』を選び、みがいたときに痛みがあれば『やわらかめ』に変える。
●患部がしみなければ歯みがき粉を使う。しみる場合は歯みがき粉は使わず、歯ブラシをぬるま湯で濡らしてみがく。
●みがくときの力加減は、歯ブラシの毛先がたわまない程度がベスト。患部を傷つけるので、ゴシゴシみがきは避ける。
●みがく時間より『質』を重視。体調が許す範囲で、すべての歯をまんべんなくブラッシングする。

口の中の乾燥が気になるときは、市販の口腔用保湿剤やうがいで対処します。うがいは頻繁に、できれば2時間おきを目安に行ってください。ご自身でケアをしても、症状がひどくて食事がとれないときは、我慢せず主治医に相談し歯科を受診しましょう。歯科では、粘膜炎や口内炎のある部分に直接つけて痛みを麻痺させる表面麻酔薬や、粘膜の上に薄い膜を作る口腔粘膜保護剤なども処方しています。それらを使った患者さんからは、「久しぶりに熱いお味噌汁が飲めた!」という喜びの声も届いていますよ。」

がんの治療中は、吐き気や発熱など全身の苦痛へ意識が向き、お口のトラブルへの対応は後回しになりがちです。しっかり食べて治療を乗り切るためにも、忘れずにお口のケアも取り入れましょう。


【プロフィール】上野尚雄(うえの たかお)先生
1997年北海道大学歯学部卒業、同年北海道大学第一口腔外科入局。2003年北海道大学大学院歯学研究科博士課程卒業。2004年静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科入局、2007年同センター歯科口腔外科副医長。2008年国立がんセンター中央病院 歯科医員、2012年国立がん研究センター中央病院歯科医長、現在に至る。
日本がんサポーティブケア学会粘膜炎部会委員、日本がん口腔支持療法学会理事、8020推進財団理事。山梨大学医学部附属病院非常勤講師(歯科口腔外科)、昭和大学歯学部 兼任講師(口腔衛生学部門)、長崎大学歯学部 非常勤講師(加齢口腔生理学)を併任。


取材・執筆/北林あい  撮影/AKANE
取材協力 キャンサーネットジャパン
https://www.cancernet.jp/

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