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  • メディカルオンコロジー

第4回  知っておきたい乳がんと食生活の関係

2020.04.03

乳がんの増加は、食生活などのライフスタイルも影響しています。乳がんの発症や予防と日々の食事との関係は、様々なメディアでも取り上げられていますが、間違った情報が多いのも事実です。湘南記念病院 乳がんセンター長の土井卓子先生のお話を参考に、正しい知識をもとにして毎日の食事に気をつけてみましょう。


日本の女性の体に変化をもたらした、欧米寄りの食生活に危険信号

―乳がんになる人は増加傾向にありますが、食生活はどのように影響していますか。

「日本の女性に乳がんが増えた一つの理由として、食生活の欧米化が考えられます。日本の食生活が欧米化することによって、幼少期から高カロリー、高脂肪の食品を摂り、栄養状態が良くなりました。その結果、体の成長は早まり、初潮の開始年齢も早くなっています。乳がんは、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けて増殖するタイプが全体の約7割を占めていて、生涯における月経回数が多く、エストロゲンが分泌されている期間が長いほど乳がんになりやすいと言われています。

また、食生活の欧米化は、閉経した後の肥満にも影響しています。閉経すると卵巣でエストロゲンは作られなくなり、代わりに副腎で分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)が、酵素(アロマターゼ)によってエストロゲンに作り替えられます。このアロマターゼは脂肪組織にも含まれているため、肥満体型の人は閉経した後もエストロゲンの影響を受けやすくなるのです。

このように、特定の食べ物を食べると乳がんになりやすいということではなく、食の欧米化がもたらした体の変化によって、乳がんの発症リスクが高まっていると考えられます。」


積極的にとりたいのは日本食を支えてきた大豆食品

―では、乳がんの発症リスクを下げるのに効果的な食品はありますか。

「注目されているのが、大豆食品などに含まれるイソフラボンという成分です。イソフラボンは、腸内細菌により『エクオール』という成分に変換され、乳がんの発症を抑制します。『エクオール』は女性ホルモンのエストロゲンと構造が似ているため、乳がんの発症リスクを高めてしまうという説もあります。しかし、細胞が増殖する素として働くか、抑制する素として働くかは体のどの部分に作用するかで異なるものです。例えば、『エクオール』は、骨に対しては骨密度を高める効果があり、乳がんに対してはエストロゲンの受容体に拮抗する効果が期待できると考えられています。

イソフラボンを『エクオール』に変換するには、『エクオール』を作り出す細菌が育つための腸内環境が鍵になります。健康な腸内環境を維持するためにも大豆食品を食べることは重要ですが、即効性はないため日々の食事の積み重ねが大切です。したがって、子育て中のお母さんはお子さんの食事に大豆食品を積極的に取り入れ、子どもの頃から腸内環境を整える食事を心掛けるといいでしょう。」


乳がんの発症は、食生活だけでなく複数の因子が関係

―インターネットなどに乳がんと食生活に関する情報が溢れていますが、誤解の多いものとは。

「がんは健康な細胞に比べて増殖速度が早く、糖代謝が活発です。そのため、糖を摂取するとがんは増殖するという説がありますが、これはまったくの間違い。食事で摂取した糖は肝臓に蓄えられるため、そもそも糖ががんに直接取り込まれることはありません。また、野菜や発酵食品が中心の自然食は、がんに効くという説もあります。確かにファストフードばかり食べるより健康的ですが、野菜ばかりでたんぱく質が不足すると免疫力が下がり、がんを治すという効果は立証できません。

乳がんの原因は一つではなく、妊娠歴や授乳歴、閉経後の体型、家系内の乳がん歴、遺伝など複数の因子が複雑に関係しています。食生活も若干の影響を与えますが、あくまでもごく小さな因子であり、神経質になりすぎずにバランスよく食べることが大事です。

また、がんの食事療法に関する情報は、食品・食材の特徴の一側面を切り取ったものがほとんどです。例えば、野菜や果物に含まれるビタミンCは健康を維持するうえで重要だという一面はありますが、ビタミンCをたくさん摂ればがんが治るわけではありません。がんになって何かに救いを求めたくなるのは当然の心理ですが、視野を広く持ち、情報の真偽を見極めることが大切です。」

科学的根拠に基づく情報源として、土井先生がおすすめする『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』(日本乳癌学会編)も参考にしてください。



【プロフィール】土井卓子(どい たかこ)先生
医療法人湘和会湘南記念病院 乳がんセンター長。
横浜市立大学医学部卒業。
横浜市立大学医学部付属病院で研修後、済生会横浜市南部病院、独立行政法人国立病院機構横浜医療センターなどを経て、2009年より湘南記念病院にて、かまくら乳がんセンター(現乳がんセンター)を立ち上げる。医師として一貫して乳腺外科分野で経験を積み、女性の立場から女性のための乳がん治療および乳腺分野での治療に従事。その一方で、乳がん啓蒙のためメディア出演や講演活動も数多くこなす。医師、看護師だけでなく、薬剤師、体験者コーディネーターやリンパ浮腫ケアースタッフをチームに組み込んだ総合的な乳腺治療を目指している。



取材・執筆/北林あい  撮影/AKANE
取材協力 キャンサーネットジャパン
https://www.cancernet.jp/

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