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第 2 回  がん治療を助ける「栄養」の基礎知識

2020.01.08

前回のコラムでは、病状の回復には栄養状態と、たんぱく質を摂りながら筋肉量を維持することが重要であることについてうかがいました。では具体的に、筋肉量を落とさないことは、手術や抗がん剤治療にどのような影響があるのでしょうか。前回に引き続き、北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授の比企直樹先生にお話いただきました。


たんぱく質+必須アミノ酸で術後の合併症リスクを軽減

栄養状態を適切に保ち、体重と筋肉量の減少を予防したうえで手術に臨んだ場合、術後の経過について教えてください。

「術後に合併症が起きると病状回復の見通しは著しく悪化するため、手術では合併症を防ぐことが重要です。合併症の予防を栄養面から考えたとき、ごはん、パン、麺類などに含まれる炭水化物をたくさん摂取して漫然と体重を増やしても効果はありません。一方、たんぱく質を積極的に投与して筋肉量を増やした患者さんは、術後の合併症が劇的に減少したという研究例があります。これから議論を深めるべき課題ではありますが、筋肉量と合併症の因果関係はほぼ間違いないと言えるでしょう。したがって、手術を控えた患者さんは、術前からたんぱく質をしっかり摂って、筋肉量を落とさない食生活を心掛けてください。三大栄養素の一つである炭水化物も体にとって不可欠ですが、すぐにエネルギーとして消費されてしまうので、筋肉を蓄えるという意味ではたんぱく質が鍵になります。」

―では、効率良く筋肉を作るために、たんぱく質にプラスするといい栄養素や生活習慣はありますか。

「意識して摂取したいのは、筋肉の分解を抑えて再生を高める分岐鎖アミノ酸(BCAAです。BCAA はアミノ酸の中のバリン、ロイシン、イソロイシンの総称で、体内で作ることができないため、食品などから摂取する必要がある必須アミノ酸にあたります。食品ではマグロ、アジ、豚肉、かつお、鶏のもも肉・胸肉などに含まれます。しかし、食事からの摂取だけでは十分とは言えず、筋肉量の減少が認められる人には BCAA を投与したり、ロイシン入りのONSOral Nutrition Supplementation:食事で十分な栄養がとれない場合の栄養補助食品を使うこともあります。もちろん口から食事を摂るのが理想ですが、難しい場合は胃や腸に直接栄養を投与したり、鼻または口から管を入れて栄養を摂ったりします。ただし、BCAA だけを摂っても効果はなく、十分にたんぱく質を摂取したうえでBCAA を上乗せすることによって本来持っている栄養効果が発揮されます。」




体重と筋肉量の維持によって、辛い副作用を抑制


化学療法中は、強い副作用により治療を中止するケースがありますよね。

「化学療法は、たとえ抗がん剤の量を減らしても最後まで行うことが重要です。その裏付けとなる研究として、進行性胃がんの抗がん剤治療で 1 年間使用する予定の「ティーエスワンTS1:おもに胃がん、すい臓がん、胆道がんの治療に用いられる内服薬」を半年間に短縮して検証したところ、生存率が低いということがわかっています。
それでも医師が抗がん剤の中断を決めるおもな理由は、やはり辛い副作用です。その副作用を抑えるには、栄養管理と運動で筋肉量を維持し、体重を落とさないことが肝心なのです。筋肉量が 5%以上落ちると、副作用の影響で治療を続けられない人が増え、減少が 5%以内に留まった人のうち約 95%が抗がん剤を最後まで行うことができたという研究結果もあります。十分な栄養の摂取が抗がん剤治療を支えると言っていいでしょう。」

「筋肉量を増やすには、たんぱく質と併せて BCAA を摂取することが重要とお話しましたが、栄養管理と併せて運動も行ってください。なぜなら、運動をすると抗炎症サイトカインという物質が分泌され、がん細胞から放出されてがんの増殖に関係する炎症性サイトカインを抑制するからです。理想は16,000歩以上のウォーキングでしょうか。歩くことで心筋梗塞や狭心症のリスクが下がることがわかっています。より
良い治療成果を得るために、適切な栄養管理と適度な運動を実践し治療に臨んでください。」


プロフィール】比企直樹先生
1990年北里大学医学部卒業後、同年東京大学附属病院分院第3外科教室へ。臨床研究フェローとしてドイツ・ウルム大学へ渡航。1999年東京大学大学院医学研究科(外科学専攻)終了。2001年より東京大学医学部附属病院胃食道外科助手。2005年財団法人癌研究会有明病院・消化器外科医員。2011年徳島大学消化器外科臨床教授。2012年財団法人癌研究会有明病院・栄養部部長。2014年東京女子医大消化器センター外科客員教授。2015年財団法人癌研究会有明病院・消化器外科胃外科部長。2016年財団法人癌研究会有明病院・機器開発センター長兼任。2019年北里大学上部消化管外科主任教授。現在に至る。
日本外科代謝栄養学理事。日本静脈経腸栄養学会監事。British Journal of Surgery編集員。



取材・執筆/北林あい 撮影/木口マリ
取材協力 キャンサーネットジャパン
https://www.cancernet.jp/

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